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「働きながら障害年金をもらうこと」に触れた障害者ドットコムのコラム記事を見て【私見】

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当該記事に抱いた3つの疑問

1. 障害年金制度を本当によく調べたのか

まず1つ目の疑問は以下のことである。

筆者の遥けき博愛の郷氏が当該記事の執筆時に障害年金制度について本当によく調べたのかどうか。

この方は当該記事の中で、精神障害事由による障害年金について次のように述べている。

(前略)障害年金には手帳のように等級(基礎1~2級、厚生1~3級)こそありますが、身体障害が基準かつ観点も別物となっており、精神で支給されるには結構コツが必要です。一番軽い厚生3級すら、短時間や軽作業なら働けるという基準で、フルタイムは想定していません。2級で既に家から出られず就労どころではないとされています。いずれにせよ、働きながら受給されるような設計にはなっていない訳ですね。

障害者ドットコム(2024)「『障害者雇用だけど手取り30万』発言は何が問題だったのか」(2024年9月11日アクセス)

生活保護ヘイトと同じやり口で広がっている障害年金神話ですが、何度も言うように障害者手帳があれば誰でも受けられるものではなく、働いている人間が真っ向から申請してもまず通らない厳しい制度です。

同上

医師の診断書がしっかりしていたり、社労士のスキルが高かったりすれば、働きながら障害年金を受けている人もゼロではないでしょう。ただ、仕事と障害年金を両取りするのは“イレギュラー”であるとの自覚は持たねばなりません。

同上

要するに、遥けき博愛の郷氏は記事の中で次のように説明している。

精神障害による障害年金をもらながら働くことは通常ではない。厚生3級を除くと障害年金はほとんどもらえない。

だがこの説明は正確ではない。そもそも障害年金は「障害」に対して支給されるが、「障害によって働けないこと」に対して支給されるものではない。この点は身体障害だろうが精神障害だろうが共通である。

次に障害年金の等級判定で使われる障害認定基準には、就労中には障害年金を支給しない旨はどこにも書かれていない。現に精神の障害の認定基準(p56-62)にも、就労している場合も就労状況や就労に際する援助の内容も考慮して判断する旨が書かれているだけである。

さらに「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」には、障害者雇用による就労は1級・2級の可能性を検討する旨や、一般就労や自営・家業による就労でも、援助を受けている場合は2級の可能性を検討する旨が書かれている。(p8-9)

つまり障害認定基準やガイドラインをよく読めば、実際には働きながら障害年金を受給できる余地が十分あることが分かるはずである。

遥けき博愛の郷氏は、記事の執筆時に障害年金制度について十分調べられたのだろうか。特に障害年金と就労の関係について、日本年金機構のWebサイトでも公開されているこの2つの資料を執筆時に読まれたのだろうか。私にはすごく疑問である。

2. 「障害年金神話」を支持したとしているが…

次に遥けき博愛の郷氏は、自身の記事で問題としているXのポスト主をこう評している。

それよりも罪深いのは、「障害年金神話」を障害者の立場から支持してしまったことです。

障害者ドットコム(2024)「『障害者雇用だけど手取り30万』発言は何が問題だったのか」(2024年9月11日アクセス)

(筆者注:障害年金を受給できるのが)働けない障害者が前提であることを敢えて隠したうえで、全ての障害者が健常者より月7万も得しているなどとデマを流すのは、悪意以外の何物でもないでしょう。それを障害者の立場から支持するような物言いをしたのであれば、炎上するのは仕方のない事です。

同上

この部分は遥けき博愛の郷氏が障害年金と就労の関係を十分理解できていれば、そもそもこのような書きようはしなかっただろう。前述の通り障害年金は働きながらもらえる余地があるので、「働けない障害者が前提」という部分は正確ではない。

あと私の記憶では、Xのポスト主は「全ての障害者が健常者より月7万円も得しているなどとデマ」を流したことを「支持するような物言い」はそもそもしていなかった。

ポスト主が手取りの給料と障害年金を両方もらっていることを開示されたこと自体は私も覚えているが、どう読めば「障害年金神話」というものを支持したように捉えられるのだろうか。このことが私の感じた2つ目の疑問である。

なおここで述べられている「障害年金神話」は次のように解説されている。

障害年金神話とは、『障害者は月7万の年金を貰っている』という偏見に満ちた作り話で、主に障害者アンチが吹聴しています。

障害者ドットコム(2024)「『障害者雇用だけど手取り30万』発言は何が問題だったのか」(2024年9月11日アクセス)

私は念のため「障害年金神話」というワードをGoogleで検索した。すると遥けき博愛の郷氏の記事以外に「障害年金神話」を扱うページはヒットしなかった。この方が自ら「障害年金神話」を広く世間に浸透させることにならないだろうか。

3. 障害年金受給者が努力して働いて稼いだらいけないのか

私は努力して働いた分に見合う給料は堂々ともらって良いと考えている。給料は労働の対価であり、障害や障害年金の有無は関係ない。

遥けき博愛の郷氏は、「障害者の低月収は非常に根深く大きな問題」(障害者ドットコム 2024)と言っている。このこと自体は私も同意するが、障害年金受給者はほぼ働けないという誤解や障害者に払う給料が低く抑えられている現状を打ち破らなければ、この問題の解決には近づかないのではないか。

この障害者の低月収問題の解決策の中には、以下のようなことも含まれるはずである。

  • 障害年金をもらいながらの就労をより積極的に認めること
  • 障害の有無だけで業務や給料を区別しないこと

私は障害者の月収を上げようとする取り組みを、この方が逆につぶそうとしているように思えてしまう。

また遥けき博愛の郷氏は当該コラム記事をこう締めくくっている。

障害者の低月収は非常に根深く大きな問題なので、たった一人の上澄みが遠吠えを上げたところで何の足しにもなりません。

障害者ドットコム(2024)「『障害者雇用だけど手取り30万』発言は何が問題だったのか」(2024年9月11日アクセス)

確かにあのXの投稿で賛否が沸き起こったことは事実である。だが障害者ドットコムに掲載する記事であのXのポスト主を「切り捨てる」ようでは、かえって障害者の低月収問題の解決を遠ざけてしまうのではないか。

なお社会問題改善のきっかけがたった1人の意見だった、ということがあり得ることも申し上げたい。

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